2016年11月6日日曜日

【展示作品について】
今回の写真は、THE NORTH FACEの若手クライマーである中嶋徹(なかじまとおる)、野口啓代(のぐちあきよ)、楢崎智亜(ならさきともあ)の3人が全国の岩場を旅するというプロジェクトの一環で撮ったものです。撮影は2015年の11月で、フィールドは四国です。
 旅の様子はムービーにまとめて、YouTubeで「THE NORTH FACE Rock Trip #01 SHIKOKU」として公開しています。是非、そちらもご覧ください。

THE NORTH FACE Rock Trip #01 SHIKOKU
https://www.youtube.com/watch?v=WjAmnLFlkbk
クライマーはみんな手がすごいんです。指は太いし、長年引っ張られてるから長くなってるし。その手を撮りたいと思っていたけれど、ふつうに手だけを撮るのはつまらないと思っていました。
 クライマーっていっつも手をいじってるんです。擦れるから手入れも必要だし、何かあると登れなくなるからいつも気にしてる。あと、ツメも毎日切ってるし。同じようにクライミングシューズってきついから、時間があったらサンダルに履き替えて足を解放してました。
 これは、たまたま誰かと話している一瞬。クライマーらしい指で自分の足を触りながら笑ってる。ポートレートと言うよりも、この手が狙いだったので、撮ってるときには表情は見てなかった気がします。
 あきよちゃんはいつもフワッと笑ってるけど、いったん登り始めたらしぶとい。登るって決めたら絶対最後には登るっていう人でした。そういう、しぶとく最後までやりきるシーンを、旅の間に何度も見ました。
いったいどうやってできたんだろう?って思うような岩の天井に張り付いていくルートです。今回のトリップで一番かっこよかった岩のシーン。彼らにとって一番難しかったかどうかは分からないけど、見ていてかっこよかったです。
 僕はクライミングには詳しくはないし、撮り手としてはどうしてもロケーションの善し悪しでテンションが決まります。大きな岩は向かい側から撮ると、岩のゴツゴツやオーバーハングがわかりにくいし、上から見下ろすと岩の全体が見えない。ここは近くに寄ってクライマーの動きをとりながら、岩の厳しさと風景の雄大さが写し取れる楽しい場所でした。クライマーはあきよちゃんです。
同じくあきよちゃんです。岩の天井に張り付くルートは全体重を自分で支えることになります。ホールドも少ないので、時には内ももで岩をぎゅっと挟みながら進んむこともあります。しかも、足をかけて立ったりすることができません。ずっと体重を支えてるので、休むことができないんです。
 写真はマントルと呼ばれている部分で、ここまで来たらホールドが良くなるし、かかとを引っかけたりして少しだけ休むことができます。これはぶら下がったまま、あきよちゃんが腕をほぐしてるところです。この先はちょっと変わったムーブで体勢を変えて、今度は岩の上に登っていきます。
とおる君は日本のトップフリークライマー。物静かで動きが柔らかい人。話していても落ち着いていて、賢さがにじみ出てました。
 これは、ともあ君が登った岩に別のラインを見つけて、新たなラインを開拓したところです。本人はこうすれば行ける!って思ったようでしたけど、僕には全然登れそうには見えなかったし、写真を撮っている間も次の動きの予想がつきませんでした。彼らには、普通の人には見えないラインが見えていて、それを仲間同士で完璧に共有できている。その、見えないものが見える能力に、何度も感心させられました。
経験豊富なとおる君も、さすがに朝からいきなり難しいところには行きません。これは朝イチのウォームアップ。撮影の前には1〜2本、そこらの岩をちょっと登ったりします。僕らカメラマンも同じで、撮影の前にはちょっとスタッフの顔を撮ったり、風景を狙ったり、アングルを探したり。そういうときに撮った、ウォームアップセッションです。リラックスした中に、今日一日のことを考えながらゆっくりと緊張感を高めていく。そんな時間でした。
今回、四国の川の地形やきれいさに感動しました。毎日、クライミングポイントを目指して沢の奥に入っていきますが、その谷が深いんです。山がスッと切り立っていて、空が遠い。北海道にはない景色です。それでいてスケール感もすごい。天人峡や層雲峡がかわいく思えるほどでした。
 それから水がきれいなことに驚きました。谷が深すぎて家が建てられないから、人が住めない。だから本当に、自然がそのまま残っている。
 写真はたまたま、水の流れが穏やかになっているところを見つけたときのものです。風もなくて水面が真っ平らで、大きな岩が水に映り込んでいる。その様子が、アラスカかどこかの山脈のようでした。